公開日:2023.1.20 最終更新日:2024.11.2
人生の大切な場面で使うことが多い印鑑ですが、どのように作られているかご存知でしょうか?全て職人が一本ずつ手彫りしていると思われている方も多いのではないでしょうか?
どのような作り方、優れた点があるのかご説明させていただきます。
基本的な印鑑製作の流れ
文字や字形の選定
これから作製する印鑑のベースを決める大切な作業となります。この段階で捺印した印影のイメージが決まります。
注文する人が直接意見を伝えることができる工程でもあるので、こだわりの書体や配列など納得がいくまで検討されることをおすすめします。
ちなみに文字配列や彫刻する位置などに意味をもたせた「開運印鑑」というものがあります。これは近年一部の印鑑業者が販売方法のひとつとして編み出したものと言われています。ご興味のある方は別途ご検索されては如何でしょうか?
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印材の準備
文字を彫刻する印材の表面を目の細かいヤスリで平らに揃えます。一部に凹みがあると完成した印鑑の文字にも影響が出るので細心の注意を払いながら研磨します。
その後 彫刻面に文字を書き入れるため着色します。一般的に朱を入れることが多いです。
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印鑑文字(印面)の書き入れ
事前に作製した彫刻文字を印材に書き入れていきます。このとき、文字は左右逆転したものでなければなりません。また、単純に文字を配置しただけではつまらない仕上がりとなります。文字の流れを活かして個々の文字が引き立つようなバランスを調整していくことも職人の技と言えます。
粗彫り
いよいよ印材を彫刻する作業となります。まずは書き入れた文字の周囲を荒く彫っていきます。彫刻する印材素材の種類によって性質が異なるため慎重な確認をしながらの作業となります。
文字は細い線が垂直に立つように彫刻するのではなく、文字表面から土手のように緩やかな傾斜を付けて彫刻していきます。これは押印時にかかる力になえるため文字の土台部を太く丈夫にするためです。
仕上げ彫り
粗彫りが完了した段階でも印鑑として使えそうなのですが、よりキレイにするため仕上げ彫りを行います。粗彫り時に発生した彫刻跡・バリなどを取り除き、文字線の幅を均一に整えていきます。
捺印確認
彫り上がった印鑑の出来を確認する作業となります。
これまでの工程を完璧に熟したことで得られる結果となります。
印鑑の製作方法
上記が印鑑作製に関する全体の流れになります。
これからは、現在主流となっている印鑑の製作方法とその違いを見ていきたいと思います。
完全手彫り
すべての工程を「職人の手彫り」にて行う印鑑彫刻となります。
歯医者さんで使われる手持ちの電動工具(リューター)を使うだけで完全手彫りではなくなってしまいます。
写真の左上にあるような色々な刃先形状の「印刀」だけを使用して彫刻を行っていきます。
出来上がった印鑑の品質は技能者の腕と、どの程度丁寧に仕事をするかにかかっています。印鑑材料にもよりますが、一人一日で彫れる実印は3・4本と言われており、印材の中でも硬質な象牙などは更に時間がかかるため仕上げる本数は少なくなります。
自動彫刻機
パソコンで編集・作製した印面内容を自動で彫刻するのが彫刻機です。
専用のプログラムでパソコンにインストールされた印鑑用文字フォントをモニター画面上で配置して、文字の大きさを調整し、必要に応じて細部を加筆修正して印面内容を作製していきます。画面上でデザインが決まると、彫刻機にセットした印材を細い高速回転カッターにて正確に自動で彫刻していきます。
彫り上がった印鑑は、職人の手により印刀(印鑑彫刻用の彫刻刀)で細かな部分を仕上げます。
現在販売されている印鑑の多くはこのタイプで製造されています。また複数のメーカーから多くのロボット彫刻機が作られています。彫刻機で作製すると、非常に似た印影の印鑑ができやすくなります。そのため彫刻機による製作の場合は、文字や字形の選定時に自分なりのオリジナル性を盛り込む必要があります。
光電式彫刻
自動彫刻機と異なる光電式の彫刻機という方法があります。
トレーシングペーパーなどに描かれた印鑑原画(版下デザイン)を顕微鏡カメラで白黒を一点ずつ読み取っていきます。(写真の右側部分)その情報を元にして印材を彫刻していきます。(写真の左側部分)
光学式彫刻機の仕組みは簡単に言うと、セットされた印材の上で高速回転するカッターが、「原画の白い部分」では「下がって削る」、「黒い部分」では「上がって文字を残す」を繰り返していきます。原画と印鑑は同期して回りながら印鑑の全ての場所を自動的に彫刻します。機械による彫刻が終了後、職人の手によって仕上げ彫りして完成となります
光学式彫刻機では印鑑原画を手書きする必要があり、機械での彫刻仕上がりに多少のブレが生じることから、自動彫刻機と比較すると多くの手仕上げが必要な為、類似デザインの印鑑ができにくいという特徴もあります。
射出成形
100円ショップやホームセンターなどで売られている、いわゆる「三文判」と言われる大量生産された安価な印鑑になります。
一般的な工業品と同じように、専用の成形金型を用いて溶けた樹脂を流し込む射出成形によって全く同じ印鑑を大量に製造します。
取り急ぎでも簡単・安価で入手できる一方、第三者が同じ印影の印鑑を簡単に手にすることができるので偽造などのトラブルを生じるリスクがあります。また安価な樹脂材料を使用していることが多いため、印面部の破損などのトラブルも生じやすいです。
回覧・確認などに押印する用途としてなら安心して使えますが、トラブルリスクを考慮すると大切な書類に押印する場合は射出成形品を避けるべきでしょう。
まとめ
如何でしたでしょうか?
どんなに機械化が進んでも熟練の職人による技には適うことができないものがあるかと思います。しかし一方で彫刻機械で製造された印鑑にも良い面があることもご理解いただけたと思います。
大切な印鑑です。新たに作製するときには製造方法も理解した上で、ご自身に合った方法・お店を選んでくださることをお願い致します。