シャチハタ印とは

書類に氏名を記入したら、横に印を押す箇所があり「シャチハタ印不可」との注意書きがありました…。
使用している自分の印鑑が『シャチハタ印』なの!?と悩まれた方も多いのではないでしょうか? 印鑑の違いをしっかり説明できる人はどれくらいいるでしょうか?
ここでは何を『シャチハタ印』と呼ぶのか、解説していきます。

シャチハタ印とは

「シャチハタ印」とは何でしょうか?
そう質問されると、「スタンプ台や朱肉を使わずにポンポン連続して押せるハンコ・スタンプ」と答える人が多いのではないでしょうか?
それ、半分正解で半分間違いです。そもそも「シャチハタ印」という商品は存在していません。

「スタンプ台や朱肉を使わずにポンポン連続して押せるハンコ・スタンプ」は何!?

正しくは「インク浸透印」と呼びます。これは1970年に開催された日本万国博覧会(70年大阪万博)のスタンプラリーで「シヤチハタ株式会社」が開発した製品が使用され、その結果、全国に広まったからだと言われています。そのとき「シヤチハタ株式会社が作ったインク浸透印」が「シャチハタ印」となったわけですね。

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ちなみにシヤチハタ株式会社の「ヤ」は小文字表記ではありません。

このことを踏まえて「シャチハタ印」と印鑑の違いを解説する前に、一般的な「シャチハタ印」の製造方法を確認したいと思います。

どうやって作っているの?

「シャチハタ印」はスタンプ台や朱肉を使わずにポンポン連続して押せるという大きな特徴を持っています。ではこのような特徴はどのようにして得られるのか確認していきたいと思います。

塩が肝心!

「シャチハタ印」の秘密は文字部である「印面」部にあります。
この印面部は軟質のゴムが主な素材ですが、超微細な穴がつながった連泡体になっています。この超微細な穴によってインクが、毛細管現象を利用して留まっているため連続でポンポン押せる特徴が得られています。

ではこの「超微細スポンジ体」をどのように作り出しているのか?その最大の立役者は意外にも「塩」なのです。
塩を「つぶつぶ感」がまったくない超微細サイズにまで粉砕してゴムに混ぜたベース材を作製します。そのベース材をプレス加工やレーザー加工でハンコ部を成形・熱湯で塩を溶かすことで「超微細スポンジ体」が出来上がります。

古くはアメリカで発見された特許技術を、シヤチハタ株式会社が日本国内で初めて商品化したことも言われています。

シャチハタ印と印鑑の違い

このように作られるシャチハタ印と一般的な印鑑、どのような違いがあるのでしょうか?

硬い印鑑、柔らかいシャチハタ印

微細スポンジ体であるシャチハタ印は「インク浸透印」の文字通り、文字部が紙面に押しつぶされることで内部のインクを吐出します。そのため厳密に見ると毎回捺印される字形(印影)が異なります。

一方、「印鑑」は木材や金属材を彫刻加工して文字部を製作していますので、毎回同じ印影を得ることができます。

近年では加工技術や使用インクの改善などでシャチハタ印も鮮明な印影が得られるようになっていますが、この違いが印鑑証明に使用可・使用不可の判断に繋がっています。

見落としがち!?インク補充方法

インクを含浸してキレイに捺印できるシャチハタ印ですが、インクが不足すると鮮明な印影を得ることができなくなります。

 メーカーによると、半日(12時間)ほど放置した後、はじめて捺印した印影が極端に薄いと感じたときにインクを補充するようにアナウンスされています。

これは、一度に連続してポンポン捺印すると文字部表面のインクが瞬間的に薄くなります。しばらく時間が経過すると印面ゴム内部からインクが染み出してきて回復することがあるため、本当にインクが枯渇しているのか確認する目的で「半日(12時間)ほど放置」するようにアナウンスされています。

表から と 裏から

インクを補充する方法として2タイプのグループに分かれます。
「ゴム印面の文字部が加工されている表面に直接インクを供給する方法」と「ゴム印面の裏側からインクを補充する方法」です。
双方にメリット・デメリットがあります。可能なら購入前に補充方法はどのタイプなのかを確認してみてください。

ゴム印面の文字部が加工されている表面に直接インクを供給する方法

文字部を上にしてゴム印面にインクを1〜2滴補充してインクが馴染むまで放置します。

インクが印面内部に浸透していくまで安定な場所に放置しておく必要があり、インクが浸透していく状況を目視確認することができます。当然ながら含侵直後では捺印することができませんが、印影回復までの時間が短いのが特徴です。

ゴム印面の裏側からインクを補充する方法

製品の持ち手(柄)を外して、印面裏部からカートリッジやインクを直接補充する方法になります。インクが文字部表面にまで行き渡るまでの回復時間が必要で5〜6時間ほどかかる場合もあります。一方、補充したインクが逆流しないように製品を横倒しにしなければ補充後でも製品を使用し続けることが可能です。

双方ともインクを直接補充した場合、補充したインクが漏れ出さないように注意する必要があります。

意外な落とし穴…メンテナンス方法

便利な「シャチハタ印・インク浸透印」ですが、当然ながらメンテナンスを行わないと最悪の場合、使用不可能な状態に陥ることがあります。

・文字部にホコリの膜が…

キャップをしていても、捺印する紙面の「紙粉」や周りを漂う「ホコリ」がインクで濡れた文字部に付着していきます。意外な物で印刷物の「インク・トナー粉」や、印紙や封印に使用した「未乾燥の糊」が付着して硬化して積層していくことがあります。インクを吐出するシャチハタ印ですので、ホコリなどの被膜で覆われると鮮明な印影を得ることができなくなります。製品の取扱説明書に明記されているように先端が柔らかい綿棒などでふき取るなどしてクリーニングを行う必要があります。

・浸透印もゴムだから…

脆くなって砕けてしまった古い輪ゴムを見たことがあるかと思います。
シャチハタ印の印面部も合成ゴムなどを主原料としています。そのため、真夏の高温になった車中や部屋、真冬の極寒状態に放置などするとゴムの安定性が崩れて固く硬化したり文字部が脆くなるなど不良化することもあります。

・専用インクを補充して!

「シャチハタ印・インク浸透印」を製造販売しているメーカーは シヤチハタ株式会社 以外にも、サンビー株式会社や谷川商事株式会社、株式会社タイヨートマーなど多くメーカーがあります。

それぞれのメーカーごとにインクの特性や成分が異なるので、ご使用の商品に適した「専用インク」を使用して補充しないといけません。同じメーカーでも商品ごとに特製の異なるインクを展開している場合もあります。ご使用されている商品に適したインクを付属している「取扱説明書」や、各社webサイトなどに掲載されている「インク補充の案内コーナー」をしっかり確認して補充するようにしてください。

このように取り扱いに注意頂くことで鮮明な捺印を継続して使用できる「心強い相棒」になってくれます。