個人事業主を法人化するタイミングとは。新しい印鑑を用意すべき?

個人事業主として運営している事業が軌道に乗ったとき、「法人化すべきか」と考える方は多いでしょう。

しかし、法人化を検討するにあたり、どのタイミングで法人化すべきか、新たな印鑑を用意すべきかなど、いろいろな悩みが出てくるのではないでしょうか。法人化によるメリット・デメリットを把握しておきたい方もいるでしょう。

そこで今回は、個人事業主が法人化するのに望ましいタイミングやメリット・デメリット、必要な印鑑の種類などについて解説します。

個人事業主が法人化するのが望ましいタイミング

個人事業主は、ある程度利益が大きくなったら法人化すると良いといった話を聞いたことがある方もいるでしょう。

具体的にはどれくらいの利益が出たら、法人化を検討すべきなのでしょうか。まずは、個人事業主が法人化するのが望ましいタイミングについて解説します。

個人事業の所得が800万円以上となったとき

個人事業主が法人化するのが望ましいタイミングとして一般的にいわれているのは、事業所得が800万~900万円になったときです。

個人事業主の場合は所得に対して「所得税」が、法人化した場合は所得に対して「法人税」が課せられます。

所得税の場合、所得額が800万円のときの税率は23%です。一方、法人税の場合は、所得額が800万円以下なら税率が15%となるため、税負担が軽くなります。

ただし、法人化後の報酬の金額や事業所得以外の所得の有無、適用される所得控除などの条件によって税率が変わるため、専門家に確認した方が良いでしょう。

2年前の売上が1,000万円以上となったとき

2年前の売上高が1,000万円以上の場合も、個人事業主が法人化するのが望ましいタイミングです。個人事業主としての売上が1,000万円を超えると、消費税の課税事業者になります。

しかし、売上が1,000万円を超えたタイミングで法人化すれば、最長2年間消費税の納付が免除されるのです。これを「基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」といいます。

消費税は、2年前(個人事業主は前々年・法人は前々事業年度)を基準期間として、納税義務の有無を判断します。

個人事業主として売上があっても、法人化すればその年が初年度となるため、「前々事業年度の売上は存在しない=納税義務なし」と判断されるのです。

ただし、資本金の金額などによっては消費税の納付が免除されないことがあるため、納税義務の免除の条件をよく確認しておきましょう。

事業を拡大したいとき

事業を拡大したいときも、個人事業主が法人化するのが望ましいタイミングです。事業を拡大するには、多額の資金を必要とします。

しかし、個人では信用度が低いため、高額の資金を借り入れる難易度が高めです。また、法人のみを対象とした補助金・助成金などの制度も利用できません。

法人化すれば個人事業主のときよりも社会的信用度が高まるため、資金が借り入れやすくなります。法人限定の補助金・助成金を活用することも可能です。

また、法人向けサービスの利用や、法人以外とは契約しない企業との取引などもできるようになるので、事業拡大には法人化が不可欠といえます。

個人事業主が法人化するメリット

個人事業主が法人化を検討する際には、法人化のメリット・デメリットを把握して、本当に法人化すべきかを考えることが重要です。ここでは、個人事業主が法人化するメリットについて解説します。

税の負担が軽くなる場合がある

個人事業主の所得に課せられる所得税には、所得額が増えるほど税率が上がる「累進課税制度」が適用されています。

一方、法人の所得に課せられる法人税には、累進課税制度が適用されていません。所得額が800万以下の場合は15%、800万円以上の場合は23.2%と、税率がほぼ一定です。

そのため、個人事業主として事業を続けるよりも、法人化したほうが税負担が軽くなる場合があります。

出典:「法人課税に関する基本的な資料」(財務省)

赤字の場合に10年間繰り越しができる

個人事業主で青色申告をしていれば赤字を最長3年間繰り越せますが、法人の場合は最長10年間赤字の繰り越しが可能です。

翌年から特定期間内の、利益が大きかった年度に赤字を繰り越せば、利益にかかる税金を軽減できます。

金融機関や取引先からの社会的な信頼性が高くなる

法人化する際には、屋号や所在地、資本金などの情報の登記が必要です。公的機関に情報が掲載されていることは、信用度を測る材料のひとつになります。

また、登記の情報はだれでも閲覧可能で所在が確認しやすいことから、個人事業主よりも社会的信用度が高くなり、融資を受けやすくなることもあります。

個人事業主が法人化するときに把握しておきたいこと

本当に法人化すべきかを判断するために、個人事業主が法人化することのデメリットも把握しておきましょう。

事務関連手続きの負担が大きくなる

法人になると、決算書類の作成・保存や法人税の申告などを行わなくてはなりません。これらの作業は複雑で、個人事業主のときよりも事務手続きの負担が大きくなります。

また、法人を設立するときには、登録免許税や専門家への報酬の支払いなど、何かと費用がかかるものです。こうした費用の支払いが負担になることもあるでしょう。

赤字でも税金の支払い義務がある

個人事業主は赤字になると、所得税や住民税の支払いがなくなります。一方、法人の場合は、赤字であってもこれらを納付しなくてはなりません。消費税の課税事業者の場合は、消費税の納付も必要です。

そのため、赤字にもかかわらず、税金を納めるために資金を調達することになります。法人住民税の税率は自治体によって異なるので、所在地の自治体の税率を確認しておきましょう。

社会保険への加入が必要である

法人は社会保険の加入が必須です。ひとり社長であっても必ず加入しなくてはならないので、法人化すると社会保険料の支払いが生じます。

従業員を雇っている場合は、従業員の社会保険料の半分を会社が支払うため、さらに負担が重くなるでしょう。

個人事業主が法人化する流れ

法人化のタイミングやメリット・デメリットを把握したうえで、法人化を決めた方もいるでしょう。そこで、個人事業主が法人化するときの流れを解説します。

会社の基本事項の決定

まずは会社の基本事項を決めましょう。基本事項とは、以下のような内容のことです。

・商号(会社名)

・事業の目的と内容

・本社所在地

・役員の人数と報酬額

・株主の構成

・資本金

・決算日

会社用の印鑑を用意

続いて、会社用の印鑑を用意します。必要な印鑑は、「代表者印(実印)」「銀行印」「角印」「ゴム印」の4種類です。

印鑑を何個も管理するのは大変なので、ひとつの印鑑を使い回そうと考える方もいるかもしれません。

しかし、印鑑を使い回すと第三者が代表者印を悪用するリスクが生じます。法人用として個別に印鑑を作成することをおすすめします。

定款を作成

印鑑を用意したら、次に定款を作成しましょう。定款とは、法人設立の際に作成する法定文書のことです。先に決定した会社の基本事項や取締役会の設置など、法人の重要事項を記載します。

フォーマットはないので、テンプレートを活用して作成するのがおすすめです。時間がない、抜け漏れが不安といった場合は、行政書士などの専門家に依頼することもできます。

定款の認証を受ける

株式会社は作成した定款の認証を受ける必要があります。本社所在地の公証役場にて予約を取り、認証手続きを済ませましょう。認証手続きの必要書類は以下のとおりです。

・作成した定款(3部)

・発起人全員の実印と印鑑登録証明書(発行から3ヶ月以内のもの)

定款の認証手続きには、以下の費用がかかります。

・認証手数料:30,000~50,000円

・収入印紙:40,000円分

・謄本の代金:定款の枚数×250円

資本金の払い込み

定款の認証手続きを済ませたら、発起人の代表口座に資本金を振り込みます。この時点では法人口座が用意できないので、発起人の個人口座を利用しましょう。

登記申請

資本金の振り込みが完了したら、法務局に出向いて登記申請を行いましょう。登記申請では、以下のような書類が必要です。

・登記申請書

・登記すべき事項を記載した書類(CD-Rでも可)

・登録免許税納付用台紙

・定款

・発起人の決定書

・設立時取締役の就任承諾書と代表取締役の就任承諾書

・設立時取締役の印鑑登録証明書

・印鑑届出書

・資本金を振り込んだことを証明できる書類

まとめ

個人事業主が法人化するのに望ましいタイミングは、所得額が800万円以上になったときや、2年前の売上が1,000万円以上のときなどです。事業を拡大したいときも、法人化を検討すると良いです。ただし、法人化にはメリット・デメリットがあるため、本当に法人化すべきかをじっくり考えてみることが大切です。